空に映る海

                  魁桜花

例えば、友達が何かに悩んでいたとしよう。自分で抱え込むには大きすぎる悩みをだ。そして、その友達は誰の助けも望んではいない。しかしそれでも、その友達の力になりたい、俺が一緒に悩めばどうにかなる、そう思うのは、ただの自己満足なのだろうか、傲慢なだけなのだろうか。相手が自分の力だけで、どうにかなると思うのは…。けれどそういうものだろう?友達が困っていると手を貸そうと思うし、悩んでいたら一緒に悩もうと思う。それが本当の友達って物だろう。

三 風の流れに身を任せ

「おい、流、こっちにはいなかったぞ。」

 雪葉がいなくなった。

「…私の方もです。」

 もう半月近くになる。

「…俺もだ。」

 最初はすぐ帰ってくる、そう思っていた。だが、雪葉は未だに帰っていない。

「どうする、海?今日はもうやめにしとくか?」

 日はもう沈みかけ、東の空が濃紺に染まっている。

「…そうだな。もう暗くなってきたし、今日はこれぐらいにするか。」

 海の言葉にクウもうなずく

「そうですね。…では、私は先に帰ってご飯の準備を始めていますね。」

「それなら、俺も手伝うよ。」

 クウが走り出そうとしていたのを制して、俺は言った。

 クウの料理は、はじめに比べると随分よくなった。それでも一人でしてもらうには、若干の不安が残る。

「あっ、はい、ありがとうございます。」

 あわてて頭を下げる。

「気にすんなって。」

 少しでもおいしいものを食べようとして、手伝おうと言った身としては、少し罪悪感を覚える。

「じゃあ、海、俺達は先に帰るぞ。」

「ああ、分かった。僕は雪葉を探しながらゆっくり帰るよ。」

「そうか。まぁそこそこで帰って来いよ。」

 気をつけてな、そう言って俺達は別れた。

「…はぁ、雪葉さん、見つかりませんねぇ。」

帰り道、隣を歩いていたクウがポツリと言った。

「そうだな。早く見つかるといいんだけどな。」

「…はい。…けど…。」

 クウは、一度俺の方を見て、口ごもった。

「けど?」

軽く聞き返してみる。

「…なんて言うか、その…。流さんってあまり動揺しないんですね。雪葉さんが急にいなくなってしまったのに。……あっ、けど決して流さんが冷たいとか、そういうのじゃなくて……。」

 失礼なことを言った、と思ったのだろうか、慌てふためくクウを落ち着かせ言った。

「別にいいよ。けど、俺だって動揺してないわけじゃない。いつも一緒だった雪葉がいなくなって…。」

 喋っているうちに今まで抑えていたものがこみ上げてきた。目の端に溜まったものを見られるのが嫌で俺はクウから目を逸らして前を見た。

「…でも、それでみんながうろたえているわけにはいかないだろ。雪葉がいなくなった理由はともかく、今は、雪葉を探すのが一番大事なんだから。それに海も最近、何だか悩み事でもあるみたいだしな。俺がしっかりしていないことにはどうしょうもないだろ。」

 ぎこちなかったかもしれないが、最後は何とか笑みを浮かべることができた。

「……はぁー、そうだったんですか。…その、なんて言うか、流さんは強いですね。」

 クウの方を見ると、心底、感心したような顔でこちらを見ていた。

「そんなことはないさ。…ところでだ。クウは、最近、海の様子がおかしいとか思ったことないか。」

 近頃、少し気になっていたことを訊いてみた。自分がよく分からなくても、クウならあるいは、という淡い期待があったのかもしれない。

「さぁ、私にはちょっと分かりかねますが…。それに海さんに会ってまだ数週間しか経っていない私よりは、流さんの方がよく知っていると思いますけど。」

「…それもそうだな。」

 海の様子が少し変わったのはクウが来てからだ。分かっていたはずなのに、どうしても声に落胆の色が混じってしまう。

「すいません。力になれなくて。」

 俺の落胆の様子が伝わったのか、クウがすまなさそうに頭を下げた。

「しょうがないさ。……さて、今日の夕飯は何にしようか?」

 暗くなり始めた雰囲気を壊すために、俺は話題を変えた。

「そうですねー。…カレー、なんてどうです?」

 そういえば、雪葉がいなくなってから食べた覚えがない。

「……そうだな。それでいくか!」

 少し大きな声でそう言って、俺達は、廃ビルへと急いだ。

「……ど、どうでしょうか?」

 夕食。今夜のメニューは、カレー。今夜のカレーは少し特別だ。

「うん、いいんじゃないのか。」

 そう言って、おいしそうに食べる海を見て、クウはホッと息をついた。

「よかったです。」

 そう今日のカレーは、クウだけで作ったのだ。まぁ、一部、俺が手伝ったことは、この際黙っておこう。

「流さんは、どうですか?」

 期待と不安の混じった視線をこちらに向ける。

 俺は、一口食べ、

「ああ、俺もおいしいと思う。」

「そうですか。私もうれしいです。」

 本当にうれしそうだ。

 しばらく、俺達は、他愛もない話に花を咲かせながら、クウが作ったカレーを食べた。

 食後、カレーも食べ終わり、クウが片付けを始めだしたとき、俺は気になっていたことを海に訊いてみることにした。

「…なぁ、海?少し変なことを言ってもいいか?」

少し声のトーンを落とした俺に、海は真顔で、

「あぁ、放送コードに、引っかからなければな。」

 海は思いっきり、ボケた。時々海はわけの分からんことをする。たいていは、真顔つまらんことを言う程度だが……。今回は、不覚にも少しうけてしまった。

「か、海、真顔でボケるのはやめろって。大体、俺は真面目な話をしてんだ。」

「そうか、それは悪い。だが、少しは面白かっただろ?」

 くっ、こいつしっかり見てやがる。

「…で、話を戻すとだな。……お前何か悩み事でもあるんじゃないのか?」

 改めて訊いてみる。

「…いや、別に。」

 即答。しかし、その目は俺の方を見ていない。

 嘘だ。すぐにそう分かった。

 だが、海が自ら話そうとしないのなら、無理に訊く必要は無い。それは、今、話すべきことではないのだろう。本当に必要になったときは、話してくれるはずだ。だから……。

「…そうか。ならいいんだ。」

結局、そう答えてその話はやめにした。

その後、明日の予定などを話し合い、床に就いた。

そして、翌日、硬直状態になりつつあった雪葉の捜索は、大きな変化を迎える。

                  (つづく)

あとがき

 今日は、魁桜花です。なんか中途半端な、長さになってしまって…。申し訳ない限りです。

それもこれも、友人T君がやたら面白い小説を貸してくれたのが原因かと…。

次こそはもう少し多めに(今回の二倍ぐらいかな)書きますので、カンベンして下さい(けど、今から約束しておいて大丈夫かな?)

また今回も誤字、脱字があるかもしれませんが、そこのところも大目に見てやってください。

やっぱり、出版物に誤字、脱字は付き物ですし…(少しは気を付けろよ)

 こんな作者を、見捨てずに次も読んでもらえれば、幸いです。それでは、ごきげんよう。

  『wing my way』を聞きながら

           六月二十三日 深夜 魁桜花