仙柳記
双月星樹
1
「おーい帰ったぞークソガキどもちょっと門開けろー」
「はーい、師匠。いま行きますっ」
聞き慣れた声に、館の奥にあてがわれた一室で本を読んでいた僕は使い込まれた木の椅子から立ち上がった。
広い廊下を走って門の所まで行く。都の建物のように派手ではないが、黒檀に浮き彫りにされたひかえめな模様が美しい。いつ見ても立派な造りだ。
ちょっと重い門を押し開けるとそこには七、八歳くらいのかわいらしい少年が、両手いっぱいに物を持って立っていた。この人こそが僕のお師匠様だ。とはいっても・・・
「あーーーーーーこんのバカヤローまた変な物拾ってきやがって! この屋敷の中のどこに置き場が残ってるってんだ!? 屋敷中物置にするつもりかてめっ!!」
突然僕の後ろから大きな怒鳴り声が近付いてきた。
振り向いた目の前を青色のものが高速で横切っていく。青色のかたまりが師匠にあわや激突するというところで師匠は、すっ・・・と流れるような動きでそれを避けた。標的がいきなり避けたため青色のもの(実際は青色の服に身を包ん
だ少年だが)は石畳を派手に転がっていく。
「まだまだ甘ェな丹宵(たんしょう)。・・・ほら残念賞だ。これ全部俺の部屋に持ってけ」
師匠はその外見にそぐわない不敵な笑みを浮かべて、僕の兄弟弟子、丹宵の前にどさどさと持っていたものを小山にしてさっさと館に入っていってしまう。
「こんのヤロー・・・人の話をちったあ聞きやがれこのクソボケチビジジイっ!!」
「あー?・・・なに言ってやがる。俺はまだまだ育ち盛りの千三百二十二歳だぞ。どこがジジイだ」
「テメーに成長なんざあんのかよクソジジイっ!」
「そーいや知ってっか?兄弟喧嘩でおまえのかーちゃんでーべそって言っちやいけねーんだぞー」
「それがどうしたっつーんだっ!?」
顔を真っ赤にして怒る丹宵。完全に遊ばれている。
・・・・師匠も止めときゃいいのに。
僕は思いながら丹宵にてを貸し、小山の半分くらいを両手で抱える。毎回思うことだがどうやってあの小さな体でこんなに多くの物を持ってこれるのか不思議でならない。
「丹宵、仕方ないですよ。行きましょう?」
僕が言うと、しぶしぶといった感じで丹宵も両手いっぱいに物を持って立ち上がり、僕の横に並んで歩き出す。
そこへ師匠の声が奥から響いてきた。
「碧柳(へきりゅう)、丹宵の手伝いなんざしてんじゃねーよ。それよか客がいっからてきとーにもてなしとけ」
「客・・・・・・・・・?」
言われて振り返ると門に隠れるようにして師匠より少し大きいくらいの子供が立っていた.ただ異様なことにその姿はぼろぼろで傷だらけの上、爪は割れ、あちこちに血がにじみ、立っているのがやっとのようなありさまだった。
「ちょっ・・・これはっ・・・・自力でここまで登ってきたんですかっ!?」
開くと、その子はこくりとうなずいた。
なんてこった。この館は獣さえ適わぬ切り立った絶壁の天辺に建っている。こんな小さい子供が登ってこれるような所では決してないのだ。
「約束・・・したから・・・・・・・・」
子供はやせた顔でかすかに笑った・・・ように見えた。
「・・・・とっ・・とにかくこちらへ。手当てしますから」
持っていた物を丹宵の上に乗せて子供を館の一室に連れていく。後ろの方でなにかが崩れるような音と丹宵の叫び声が聞こえたが、いまはそんなことにかまっている場合ではない。
「・・・・・・一体なんでまたこんなところまで登ってきたりしたんです?」
とりあえす湯浴みと着替えをさせて子供・・・名は九明(クーメイ)というらしい・・・の割れた爪に薬をつけながら僕は聞いた。
九明は包子(パオズ)をほおばりながらぽつりぽつりとここにくることになった経緯を語った。彼の言ったことを要約すると大体こんなふうになる。
九明の家は貧しく、ある日九明は口減らしのために実の両親によって山奥に置き去りにされてしまった。(この時代、よくあることだ)そして何日か山をさまよい、今にも死にそうになったときにうちの師匠が現れ、死にたきゃ俺の所に自力で登って来てみやがれそうすりゃ楽に殺してやらあ的なことを言って食料と山から出る道を教えて去ったらしい。(多分この時に師匠は何かの術を使ってそれ以外の方法では死ねないと九明に思い込ませたのだろう。そうでもなければこんなところまでとてもじやないけど来れないはずだ)それで九明はあの絶壁を何日もかけて登ってきたというのだ。傷からすると何度も絶壁から落ちそうになったりしたに違いない。
・・・ってあの師匠は何を考えてるんだっ!?
僕は九明にとりあえずこの部屋で休んでおくように言いつけ、師匠の部屋に駆け込んだ。
「「一体どういうこと
ですか」
なんだ!?」
最初の部分がいつのまにか来ていた丹宵と見事にハモった。僕が次の言葉を言う前に、
「おいこらてめえパカ師匠なに考えてやがんだコラ。なんであんなガキこんなとこまでこさせてんだよ。しかも死ぬためだあ〜?なに考えてやがる!?」
どうやら丹宵は立ち聞きをしていたらしい。けどまあ僕の言いたいことを全部言ってくれてるからいいとしよう。丹宵と意見が合うなんて滅多にないことだし。
僕が黙っていると丹宵は続けざまに怒鳴る。やれやれ!どんどん言ってしまえっ!!
「大体なんでこんなクソまわりくどいことする必要があるってんだ!?登ってくる間に死んだりしたらどうするつもりだったんだよ!?てめーも見付けた時点でとっとと喰っと
きや早かっただろーがっ!!」
・・・・・ガクッ!!
僕は電撃アッパーをくらったような気分になった。
「なんでそーなる!?」
思わす声を上げてしまった。
「なにがだよ?」
ものすごーく当たり前のことを聞かれたような面倒くさそうで嫌そうな表情で丹宵が聞き返してくる。
「ですからっ!どうしてあんな小さい子にこの切り立った山なんか登らせようとか考えたんですか師匠!?あぶないじゃないですかそれに師匠だったら術を使えば簡単にここ
まで来させることだってできたでしょうにどうして!?」
「なんか論点ずれてるっておまえ」
ぱたぱた手を振って言う丹宵に僕は怒鳴り返した。
「ずれてませんっ!あんな小さな子がぼろぼろになってるの見てなんにも思わないんですか二人ともっ!!こんなことする必要なんてどこにあるっていうんです?何日もかかって登ってくるなんて危険だし下の方だって心配するじゃないですかそんなことも分からないような師匠じゃないでしょうどうして・・・・・・・・・・・!?」
「だれも心配なんかしないよ」
小さな声がした。
はっと、僕も丹宵も入り口の方を振り返る。
そこには九明が立っていた。話を、いつから聞いていたのだろうか。丹宵の言ったことも?
僕は無意識に歯噛みし、九明の次の言葉を待った。
「だってぼくはもう死んでるんだもん」
言葉に、しーんと部屋のなかが静まる。
・・・・・・確かに。九明は両親に捨てられたのだからそういう考え方もできるかもしれない。・・・と、僕は思った。
だけど違った。
「・・・・・・やっと気付きやがったか。」
いままでずっと椅子に足を組んで座ったまま微動だにしなかった師匠が沈黙を破って口を開いた。気付く?何にだろう?僕は首を傾げた。丹宵も同じようにしている。
「・・・・おめーらもなあ、いいかげん気付けよ。どーやったらこんなガキがここまで登ってこれるってんだ。それでも俺の弟子名乗ってんのかよおい?」
あきれたように言われてもまだ僕にはなんのことだか分からない。どーやってって自分で何日もかけて登ってきたんじゃないんだろうか?九明はぼろぼろだったし、何よりも本人だってそう言ってるのに・・・・・・・・?
「・・・ひょっとして・・・・・・」
僕の横で丹宵がはっとしたようにつぶやく。
「ガキ、いいかげんにしろよ?ホントーはけがなんかどこにもしちやいねーんだろ?」
・・・・・・・・・?
首を傾げる僕の目の前で驚くべきことが起こった。急に九明の体が光に包まれたかと思うと次の瞬間、あれほどあちこちにあった傷がすべてなくなってしまったのだ。
「なっ・・・・人間ってこんな回復カがあるものだったん・・・です・・か・・・・・・?」
「んなわきやねーだろーがボケ!コイツは人間じゃねーんだよっ!!」
茫然とつぶやいた僕は横にいた丹宵にきっついツッコミをくらった。・・・ったく、まだ人間のことよく分かってないんだから多少のまちがいくらいいいじゃないか。・・
・・それはともかく、一体どういうことなんだ?
「だーかーらだなあ。俺が山ん中で見付けたときコイツはもう死んでたんだよ。自分が死んだの気付いてなかったからそのままほっといててもよかったんだが、なんか鬼になりそうな気配がしたからな。めんどくせーからここまで来させたんだよ。なあ?」
「・・・・・・・だって寂しかったんだもん」
師匠の面倒臭そうな視線を受けていたずらを見付かった子供のような顔で言う。
「父さんも母さんもいなくなってお腹もすいて動けなくってかなしくてつらくて・・・・・・・」
「・・・・んで恨み辛みで鬼になりかけてたってわけだ」
信じられない。この子が死人・・・いや、この場合は霊魂というべきか。だったなんて。
「・・・・・・そ・・んな・・・・・・・話だってできたし実体も感触もあったのに・・・・・・・」
「そりやあ俺様が仮の体つくってやったからな。その場で成仏させるって手もあったんだがな、ちいーっとめんどくさかったからな。登ってきてるうちに気付くだろーと思ってよ。なにがめんどーくせーって自分が死んだってのを自覚させんのが一番だからなあ」
言いながら椅子から降りて九明に近付いていく。
「苦しまず楽に殺してやるっつったからな」
言ってぴたりと九明の額に手を当てた。
その途端今度は横で丹宵が動く気配がした。
「おい、ちょっ・・・まてコラ。そいつそのまんま消すつもりかテメー?どうせだから喰っとけっ!!」
「丹宵っ!なんでそんな・・・・・・」
丹宵を止めようとした僕は、ふとこっちを振り返った師匠の日を見た途端、体が凍り付くのを感じた。何の感情も見えない、昏く、底の見えないぽっかりと口を開いた闇のような、ただ黒い瞳。無機質な表情にちらりと宿ったのは憧れにも悔しさにも近い感情。どうしてそんな・・・・・
「・・・・・・・・・じゃあな」
硬直してしまった僕らをきれいに無視して師匠は小さく低い声でそう一言だけ言った。
そして、九明は消えてしまった。もう戻ることもない」
なぜだろう。なんだか今まで経験したことのないゆっくりと流れ出る渦が胸の底に巻いているみたいだ。これが物悲しいという感情なのだろうか?九明とはたった一日にも満たない付き合いでしかなかったというのに。
初めて体験する気持ちに自分をもてあましていると、横で丹宵の動く気配がした。・・・・・怒っている?
「テメーはなに考えてやがんだ!?せっかく絶好の機会だったっつーのによ!あれを喰わないで一体なにを喰うってんだおい!?」
丹宵は真っ赤な顔で師匠の胸ぐらをつかみ、自分の目の高さまで吊り上げて怒鳴り付ける。だけど師匠は涼しい・・・・というよりは冷淡な顔で淡々と言葉を発する。
「アイツはちゃんと約束守ったんだ。だったら俺もきっちり約束を守るのがスジってもんだろ」
「・・・・んな縮んでもそんなこと言いやがるのか」
縮む?・・・・本当だ。さっきまでぴったりだったはずの師匠の服がいつのまにかぶかぶかになっている。
「俺の勝手だ放っとけ」
「 っ!勝手に死にやがれこのボケ!」
丹宵は椅子に叩きつけるように師匠を放り出した。そのまま部屋の外へと足早に出ていく。
「え・・あ・・・う・・・・・えェッ?」
なにがどうしてこんな?喧嘩(?)の理由さえ見当がつかない。こここここの場合僕はどどどどどうすれば・・・?
突然のことに動揺する僕に師匠は言った。
「・・・・・・おまえも行ってこい。ここ来てからまだ下に降りたことねーだろ。丁度いい。休暇ってやつだ」
「え、あ・う・・・・?」
頭が混乱して何を言われたのかまだはっきり理解できない。人間のように素早く反応するにはもう少し修行が必要なようだ。
「碧柳!返事はっ!?」
「はっ、はいいいいいいいいいいいっ!!」
師匠の声に反射的に返事をしてしまっていた。でもまあ断る理由も特にないし・・・・・。
「そっ・・それでは行ってきます。師匠もお気を付けて」
「おう。テメーこそな」
師匠は意味ありげに薄く笑って言った。
こうして、僕は丹宵とともに下に降りることになったのである。これがまさかあんなことになるとは夢にも思わなかったけれど・・・・。
2
「丹宵!ちょっといいかげんに待ってくださいっ!」
山から降りて(僕たちにも自分一人だけなら山を降りる術は使える)しばらくたってからやっと丹宵は僕の言葉に足を止めた。
「碧柳・・おめーもクソ師匠見限ってきやがったのか」
丹宵の、刺がふんだんにこもった言葉に僕は世にも情けない(と、思われる)表情で、力なくこう返した。
「・・・いえ・・なんだか・・・・休暇・・だそうです」
「はあ?」
まるで初めてその単語を聞いた人みたいななんともいえない表情。
「なんじゃそりゃ?」
丹宵はカが抜けるようなため息を一つ吐き出した。
「・・・・・・なに考えてやがんだあのボケは」
僕の方が聞きたいよ。
「・・・・・・・ま、とりあえすなんだな、下に来たからにはあのバカのことなんか忘れて羽でも伸はすとするか」
さっきまでの怒っていた空気もどこへやら。なんだかすっきりした顔で伸びなんかしている。いつもながら切り替えが早い。どうやったらこんな短時間で気持ちをかえることができるんだろう。僕には彼らのこんな感情の起伏の激しさを理解することがまだ難しいようだ。
「ほら、いくぞ。都は初めてだろ?」
「・・・・そうですね・・。本で読んだことはありますけど・・・前いたところが田舎でしたからね。まあ、あの雰囲気は好きでしたが・・・・」
「都はスゲーぞ。腰抜かすなよ」
カカカと笑って丹宵は先に立って歩きだした。
僕はなんだかどきどきするような予感を感じながらその背を追った。
3
「・・・・・・っ!すごい・・・・・・・・・」
それ以外の言葉が出てこない。
僕は初めて見る都の想像以上の大きさ、活気にただ茫然とたちすくんでいた。
「スゲーだろ?」
僕に聞く丹宵の声はなんだか誇らしげな響きだ。
「・・・・・すごい・・・」
もう一度つぶやいてまわりを見渡す。
朱や緑の大きな建物に、道の両端に立ち並ぶ屋台の数々。一体どこから集まってきたのかと思うくらいたくさんの人たちが通りを行き来している。
「ま、とりあえすふらふらすっか。いつまでも突っ立ってたら通行人の邪魔だかんな」
たしかに。人波は止まることなく動いている。そんな中で立ち話をしていれはそりゃ邪魔だろう。だけどそれだけの理由にしては視線が集まりすぎている気が・・・・・。
しばらく歩いた後、それは確信に変わった。
僕は今、道服に似た袖が広く裾の長い若草色の服を着ている。長い黒髪はちゃんと結っているし、まあ、前に垂らしたふたすじの毛束に飾り玉を付けてはいるが、それほど価値のあるものでもなし、それが理由というわけでもないだろう。そんなに目立つ格好をしているつもりはないのだが。やはり変なところがあるのだろうか?
「・・・・・丹宵・・僕の格好・・・変ですかねえ」
「はあ?なに言ってんだおまえ?」
先を歩いていた丹宵が振り返る。
「なんか目立ってる気がするんですけど」
「目立つ?ああそりゃあな」
丹宵は僕をちらっと見て納得したようにつぶやいた。
「色男にやみんな日がね−から払」
色男?僕の知らない単語だ。色…色・・服の色だろうか?そういえは若草色の服を着ている人は僕以外いない気がする。丹宵の収だって海や空みたいな澄んだ青でほかにはない色だ。そんな二人が連れ立っていれはたしかに目立つかもしれない。だけど僕には目はあるぞ?・・・まあいいか。
僕はとりあえす答を得て満足した。
すぐさま次の疑問が浮かぶ。
「ところで丹宵、どこにむかってるんですか?」
丹宵は立ち並ぶ露店には目もくれすにどこかを目指しているようだ。関係ないけど人間の言葉には目の付くものが妙に多い気がする。
「・・・おまえ金持ってるか?」
「金?ああ、物の交換の仲立ちをするもののことですね」
「・・・・持ってんのか持ってねーのか?」
「本で読んだだけで実物は見たこともないですね」
「オレも持ってねえ。だけどここじや金がないとなんにもできやしねえ。っつーことで手っ取り早く金を手に入れたいときは・・・・・・・ここだ」
丹宵が立ち止まったのはよほど気にしていないとうっかり通り過ぎてしまいそうな看板もなにもない小さな建物の前だった。
「こことお金に何の関係が?・・・まさか盗みをするつもりですかっ!?そこまでしてお金なんていりませんよっ!」
僕が言うと丹宵はふうと短いため息をついた。
「アホか。こんな人通りの多い道の近くでだれがんなことするか。せめて暗くなってからかそれかもっと奥の方じやなきゃできやしねえよ。警備もしっかりしてやがるしな」
・・・この男、まさか本当に泥棒の経験があるんじやなかろうか?僕は言い知れぬ不安を感じた。
「ここは質屋つって物と金を交換するところだ覚えとけ」
「はあ・・・・・・・」
「もう話は終わりましたかいの?」
「うわあっ!」
突然の声に驚いて僕は飛び上がった。
なんか最近僕こんなのはっかりだ。
戸口近くにいた老人が声をかけてきたということが分かったのはちょっと時間が経ってから。彼は暗い感じの店内に溶け込んでいて最初店内の置物かと思ったくらいだ。
「うちになにか用ですかいのう?じやったら外で騒いどらんと入りませんかいの?何事かと人が見ておりますじゃ」
「おう、そうさせてもらうぜじーさん」
「そっちの美人さんものう」
「えっ、あっ、はあ……それじゃ失礼します」
美人って女の人に付ける敬称じゃ・・・・・?
「よーじーさん景気はどうだ?」
「まあまあ、というところですかいのう」
外から入ってきたときはすごく暗く感じたが慣れるとそうでもない。僕らはすすめられるまま椅子に座り、出してもらったお茶を飲んでいた.そしてなぜか続く老人と丹宵の世話話。質屋ってこういうところなのか?
「ふーん。なんかあったんじやねーの?なんか街さびれた気イすんだけど」
・・・・さびれてる?あれで!?
「ほっほっほっあれを知らぬとは兄さん方はさぞかし遠くから来た旅の方じゃな。有名な話じゃ。皇帝様がのう、不老不死に興味を持たれてしまったのじやよ。どんな名君であってもその虜となってしまえはただの人となってしまうのかの。今宮殿にいらっしやるのは影武者じゃそうな」
「ヘー。全然しんなかったぜ。んで?」
「それで・・・・・・・」
・・・・話についていけない。
僕は二人の会話を何き流しながら店の片隅にあった鏡を見ていた。そこに映っているのは自分。薄暗い店内にぼうっと浮かび上がる白い顔。まだ思うように表情の出ない顔はいっそ人形といった方が違和感がなさそうだ。
思わず頬を軽くつねってみる。やわらかい人の肌の感触。なんだか少しだけほっとした。
・・・・美人・・ねえ・・・・・・・・。
顔の端に苦笑が刻まれる。
やっはり人間の美的感覚って謎だ。
「・・・・・・い・・・・」
「・・・ラ!・・・に・・てや・・んだ!?碧柳!!」
大きな声で名を呼ばれ、僕はびくっと飛び起きた。どうやらうたたねしてしまったようだ。
目の前にいる丹宵が構えたこぶしをちょっと残念そうに下ろすのを見て僕は飛び起きてよかったと本気で思った。
「オラ行くぜ!」
「え・・あ、お金は・・・・?」
頭が奇妙にぼやけている.きっと人間の言うところで寝呆けている状態なんだろう。初めてこの体をもらったときもこんな感じだったなとふと思う。
「なにぼけぼけ言ってやがんだ。金ならここだ」
丹宵が持ち上げてみせた袋はチャリッと硬質な音をたてて僕の目の前で重そうにゆれている。なんだかちょっと多すぎやしないかい?
「日が暮れるだろーが。とっとと行くぜ!」
「あ、うん」
「じゃーな、じーさん。色つけてもらってすまねえな」
「いやいやこっちもよい買物をさせてもらったでの」
そう言っておじいさんが持っていた物・・・なんか見覚えがあるような気がすむんだけど・・・・・?
「ほっとくぞオイ」
思い出す暇もなく、僕は襟首をつかまれて外に引きずり出されていた。
「・・・腹へらねえか?なんかくおうぜ」
言って丹宵は僕の返事も待たずに近くの屋台のオヤジに手早くなにかを注文する。なんとも我が道を行く人だ。
「あ…僕はいいです。光と水さえあれはあとは特には」
「あーそっか。柳の木だったっけか。でもまあくえねえことはねーんだろ?」
ほかはかと湯気の立つ包みの一つを僕に渡しながら丹宵は人好きのする笑みというのを浮かべた。
「はあ、まあ。多分大丈夫だとは思いますけど」
こんがりきつね色のそれを一口食べてみる。噛んだ途端にぱりっとした皮からとろりと流れ出るコクのあるあん。
・・・って焼ける無いアツイ熱い熱い水水水水死ぬーっ!!
「お・・おいっ!?大丈夫かっ!?」
全然っ!!
「 おいおい兄ちゃんどうした?」
・・・ざわざわざわざわ・・・・・・・
うわーなんかわけ分かんないうちに人が集まってきちゃったよ。人口密度ここだけ異様に高くない?そのうちツブされるんじやあ・・・・?ひょっとしなくてもマズイ?
「う・・・あ・・大丈夫大丈夫。ちょっと熱かっただけですからなんでもないんですそれではっ」
さっきっからひりひりしっぱなしの舌でそれだけをやっと言い終わると丹宵を引っ張って人垣から逃れ出た。そのまま人の少ないところを見計らってわきの小道に入る。
「・・・は っ・・・・・・」
かなり本気で死ぬかと思った.
「大丈夫か?」
「あんまり……」
というか舌痛い口の皮むけたあっつかったあーっ!
「わるかった。おまえ猫舌だったんだな」
「熱いものなんか五百七十年間一度も縁がありませんでしたからねえ・・・」
「わるい。今度は冷たいもんにしよう」
……やっぱり食べ物以外のことは頭にないのか?
というわけで(どういうわけだ)僕らは今、氷屋にいる。
氷とは冬の間に降った雪や氷を洞窟などに入れておき、その後(特に夏場などに)細かく砕いて甘いたれをかけて食べるというものだ。高価だがかなりおいしいらしい。丹塗りの椅子に腰掛けて硝子(ガラス)の器に盛られた氷を洋匙(スプーン)ですくって口の中に入れる.
さらりとした口当たりが冷気とともにのどの奥へと落ちていく。甘さもちょうどよく、いままで食べてきたものとは異質のおいしさだ。そのおいしさを自分一人だけのものにしてしまうのはあまりにもったいないほどに。
「・・・・・・師匠にも食べさせてあげたいな」
ぽつりと口をついて出た言葉は丹宵の表情を変えた。
・・・しまったかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・無駄だ。喰えやしねえ」
僕が黙っていると、丹宵は本・当・に『仕方ない』という様子で彼にしてはめずらしくぼそぼそと話し始めた。
「・・・・・まあ・・オメーもあいつの弟子ってやつだから知る権利はある・・だろーな。あそこに来てまだ日が浅いつっても分かるとは思うが、あいつは人間じゃねえ」
それは、知っていた。だって師匠は僕の切り倒される寸前の叫びを受け取ってくれた。助けてくれた。あんなこと人間にはできない。絶対に。人間は僕らの声も意志も何も聞くことができない、決して聞いてはくれないのだから。
「・・・・だから…オレらとは喰いもんも違う。オレらみたいにこーゆーくいもんやそれから光とか水とか、そういうんじゃねーんだ。あいつが喰えるのは、喰うことができるのは、・・・人間の魂だ」
丹宵はそこでひと呼吸分だけ、言葉を切った。
「ま、正確に言ゃあ人間でも動物でも何でもいいんだが。その魂っつーか精気っつーか、要するにそういうもんしか喰えねえわけよ。それ以外は体が受け付けねーんだと。・・・・だったらそれならそれで大人しく喰やあいいじやねえか。それなのにあのクソボケナスは・・・・・」
ああ、なるほど。今朝の喧嘩の原因はそれだったのかとやっと気付く僕。
話しているうちに興奮してきたのか手の中の洋匙を今にもへし折りそうな様子の丹宵。
「今朝あのボケがガキに仮の体やったとかヌカしてただろ。なんであんなめんどくせーことしたと思う?」
「・・・・・めんどうくさかったから・・・?」
僕は首を傾げて師匠が言った通りのことを返した。
丹宵の額に青筋が一本浮かぶ。
「ダアホ!!んなわきやあるかっつうか自分で考えたこと言いやがれ!ありゃあめんどくさくてしなかったんじやねえ。できなかったんだ。もうそーとー絶食続けてやがるからなあのバカは。いくら普通と違うっつったって限度ってもんがあるだろーが。ひとがどんだけ喰えっつっても聞きくさらねえしよ!何考えてやがるっつーんだ!!」
丹宵のこぶしの中で洋匙がまるでやわらかい飴細工のようにねじれ、たたまれてただの金属の囲まりと化した。
たしかに。師匠の食べ物が精気だというなら丹宵の言いょぅにも納得がいく。僕たちが術を使う材料・・・というか源は空に漂っている精気だ。生物は生きているだけで微量の精気を放出しているんだそうでそれは莫大な力を持っているという。だから僕たちは精気に力を貸してもらって術というものを行使する。だけど空の精気を取り込むのは実はすごく効率が悪い。だから師匠みたいに自分の体内(取り込みやすい所)に精気があれば、術を使ったりするときそれが優先的に使われてしまうということになる。話からすると師匠の体は多分ほとんどが精気の囲まりなんだろう。それが供給もせずただ放出だけを続ければ・・・答えは解り切っている。体の消失、意識の崩壊、死、そしてその先の無。
そんな・・・!
呼びだしそうになったとき、外でどおんという腹に響くような音が爆発した。
「なっ・・・!!」
店の客が色めき立つ。
続いて第二波がきた。
「なんなんだ!」
丹宵が椅子を蹴倒す勢いで席を立った。その目には野次馬根性がらんらんと燃えている。
「おう、なんかしんねーけど行くぜ!」
「・・・・・・!」
僕らは混乱した顔の店の人たちの間をぬって店の外に出、音のした方に向かって走りだした。
だけどこれって無銭飲食(食い逃げ)って言わないか!?
全速力で丹宵を追い掛けながら僕はそんなことを考えていた。
「おーっ!あれがそうか?」
逃げ出す人と野次馬のふたつの流れに押され、流され、逆らいながらやっと騒ぎの中心らしい所に着いた僕たち。その、集まった人たちの真ん中にぽっかりと空いた場所には半壊したぼろ家とその横にたたずむ妙齢の美女。その数歩離れた所に呆然と立ちすくむ枯れ木のような老人。
まさかこれ、この女がやったのか?・・・まさか。
辺りは異様な雰囲気に包まれている。
「なんか見たことがあるようなとこだな」
「っていうかさっき来たばっかりの質屋ですっ」
「そーだったっけなあ・・・はっはっは」
何だかとおい空を見上げながらさわやかに笑う丹宵のほおに流れた一筋の汗。
あやしすぎる。
「たぁーんしょーう?」
「なっ、なんだい!?」
「おっオレにはなんにことだかさっぱり・・・」
丹宵はそーっと僕から目をそらした。
絶対に、なにかを隠している。
「なんです?あれは」
目を合わせようとしない丹宵をひたと見据えて問う。
「あれは何かを聞いているんです」
汗が目に見えてふえる。
「丹宵」
僕は静かに彼の名を呼んだ。自分でも驚くほど静かな声だった。
丹宵は僕の目を見てびくっと表情を強ばらせ、一、二歩あとずさった。思わず、という感じだった。
「なにか、隠してますよね」
丹宵は一瞬、情けなさげな顔でぱくぱくと口を開閉し、やがてせきが切れたかのように妙に明るい口調でしゃべりだした。
「・・・あ、あれかどうかは分かんないんだけどな。オレがあのジジイに売ったときゃただの玉(ぎょく)だったし。あー・・・クソガキが今朝オレに運べとかって言いやがったヤツだって。ムカついたからガメてやったんだよ。んで、世界にまたとない宝石とかって言って質屋のオヤジに買い取らせたわけ。ま、おかげで春巻もくえたし氷もくえたし。役に立ったんだからいいんじゃねーの?どーせ屋敷に置いといてもじゃまになるだけだったんだしさ。それにあれって決まったわけでもねーし・・・な?」
「・・・・・・師匠のっていうだけでももう決まったも同然でしょうに・・・どんな石だったんです?」
「手のひらに乗るくれーの丸い石で・・・深い藍色しててまわりに銀で細かい細工がしてあったな。んで、かなり高価そうな感じ」
「ちょっ・・・ま・・さか・・・・・その銀細工がしてあったな。んで、かなり高価そうな感じ」
地面に、つい最近みたばかりの込み入った幾何学模様を思い出しながら描きだす。
「ああ、んな感じだったな」
「中になにか入っているみたいな影があったりとか・・・」
「ああそーいやじーさんがそんなこと言ってやがったな」
あっけらかんという丹宵。僕はくらくらと世界がゆれるのを感じた。ヤバイ。やばすぎる。
「なぁに暗れー顔してんだよ?たかが石だろ?」
その無神経な物言いに僕はとうとうキレた。丹宵の胸ぐらをがしっとつかみ、前後左右にゆさぶる。
「たああぁぁぁぁぁんしょう状況本当に分かって言ってますかああああぁぁぁぁ?あの石はぜんっぜんただの石なんかじゃないんですよおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
「そりゃぁ分かってるって。たしかに高く売れたしな」
「全然分かってないじゃないですかああああっ!あれは封じの石なんですよっ。今日読んでた本に書いてあったんですけどかっなりやばい妖怪変化とかも封じられている石なんですってばあああっ」
「ああああああっなんで丹宵ってばそんなに馬鹿なんですかああっ!?丹宵が調子こいて売り払った石が封じの石であそこに何だか見た目華奢だけどすごい破壊力持っているらしい人がいるんですよ!?ここまで答えそろってたら猿にでもわかりそうなものなのにいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっ!!」
「・・・・・オメーどさくさに紛れてムチャクチャ言いやがんな・・・」
「大体あんでそんな危険なものを売っ払っちゃうんですかぁーーーーーーーっ」 丹宵の耳元に向かって大声で怒鳴ったとき、
三度目の轟音。
下から突き上げる衝撃に瞬間、足が宙に浮く。
衝撃は彼女を中心に広がり、地面を深々とえぐりとり、質屋に破壊を加え、まわり中にいる人全員を遠くに吹き飛ばした。もとは質屋だった来の残害たちが細い悲鳴をあげて倒れゆくなか、必然か否かその場に残された僕と丹宵、そして彼女だけ。
「げっ・・・マジかよ・・・。碧柳・・・んでこのお嬢さんにお帰りいただくためにはどーすりゃいいわけ?」
「・・・自分から石のなかに戻ってくれるか、気絶するほどの衝撃を与えるしかないらしいんですけど」
「・・・・・・」
「・・・オレ、逃げたいかもしんねえ・・・」
僕たちの会話をそれまで黙って聞いていた彼女は口元に手を添え、ころころと鈴の鳴るような笑い声をたてた。まるでやわらかい花のつぼみが開いたような錯覚を感じる。
「今日和。私(わたくし)睡蓮と申しますわ。以後お見知りおきくださいましね。」
かわいらしくおじぎをしてくる。異国風のひらひらとした服に、高く結い上げられた髪にはたくさんの玉がゆれる。
・・・封じの石から出てきたなら妖怪には違いないけど、そんなに危なくはないのかも。
ゆるみかけた警戒心をねじふせ、気を取り直す。
「・・・・一応確認させてくださいませんか」
「いいですわよ?」
「この惨状、本当に貴女さやったことですか?」
「そうですわ。ほんの少し撫でただけですのに」
「なぜ、と聞いても?」
「だって邪魔でしたもの。あなただって邪魔なものは避けるでしょう?」
そう言ってまたころころと笑う。まるで邪気のないこどものように。
「怪我人が出なかったからよかったものの、怪我人や、まして死んだりしたらどうするつもりだったんですか!?」
「なにか問題がありまして?私には関係ありませんもの」
なんだかじわじわと体温が上がってきている気がする。
「・・・・何がしたいんです?」
「たいしたことではありませんわ。私はただ楽しみたいだけですの」
「邪魔なものはこんなふうに排除して?」
「皆やっていることでしょう?」
やわらかく向けられた視線に肌がチリチリと痛む。
この人は危険だ。
「師匠のもとへは帰ってはいただけませんか?」
「いやですわ。ずっとあんな小さな石なんかに閉じこめられていたんですもの。満足するまで遊びますわ」
「だったらいいんじゃねーの?満足すりゃ帰るんだろ」
言ったのは丹宵。
僕は振り返らずに言葉を返す。
「満足するまでにどれだけの邪魔があると思う?」
「・・・・・・・」
「もう一度だけ言います。帰っていただけませんか」
「いやよ」
「どうしてもですか」
「そうですわ。あなた方には私を止める権利はありませんことよ」
「権利はなくても義務があります」
師匠の弟子としての。
「私の邪魔をするの?」
「費女のカはこの世界には危険すぎます。世界そのものを滅ばしかねない」
「たとえ世界が壊れたとしてもあなたたちの住むところは残りますわよ。あの方の住まいですもの。つまりあなたたちが世界の心配をする必要などどこにもありませんの。それでもこれ以上陳腐な偽善的行為を続けますの?」
「偽善かどうかなんて知りません。ただ、自分にできることもしないで、それからずっと目を背けて後悔しながら生きていくなんて【僕が】嫌なんです」
真っすぐに目を見てきっはりと言い切った。
僕の目に映る睡蓮のにこにこと穏やかそうな笑顔が不意に歪んだ。
「私はただ遊びたいだけですのにあなたたちも邪魔をするのね・・・・・・・・・・・許さないから」
ごおっと音をたてて風が、正確には空の精気が睡蓮を中心に渦を巻き始める.
「丹宵ー」
「・・・・・・・・っ!」
鍛えられた無数の鋼の折れるような音が鼓膜を痛いほど震わせる。
その音が止んだと思うやいなや圧倒的質量の空気の固まりが向かってきた。僕たちは身構えるひまさえもなく、そのままふっ飛はされる。
「ふっ くっ・・・ぐうぅっ・・・・・・・」
腹の空気が残らず絞りだされる.
・・・・・・・苦しい.
「・・・・・シヤ・・・・・・シ・・ンシャ・・・い・・・でよ!」
擦れるのどから声を絞りだした途端、パチンとなにかが弾けるような音がして頬がかあっと熱くなるのを感じる。
自分の中から具現化しないままのカが吹き出すのに合わせて徐々に圧迫感がしりぞいていく。
睡蓮の驚いたような顔が見えた。
「辰砂(シンシャ)、白楊(ハクヨウ)、南珂(ナンカ)、槻(ツキ)、薔据(ショウビ)、出でよ!出でて我を助けるカとなれ!」
腹を震わせ、発する声と簡単な印。印は韻に通ずる。
額が、腕が、脚が熱い。熱は収縮し、やがてそこから痣のような模様が浮き出てくる。空の精気が急速に収束し、薄い精気の霧が辺りに漂う。
「我の前に速やかにその姿を顕せ!」
小さな破裂音とともに彼らが姿を現せた。今度は辰砂もちゃんと具現化している。身長は子供の腰ほど。薄く透き透る性のない身体。精気を糧にこの世に具現するもの。
「せ・・・精霊・・・・・・初めて見ましたわ・・・・・・・。五体も喚び出すなんてあなたは・・・何者!?」
睡蓮が茫然とつぶやく。自分も似たようなものだろうに。
「五百年も生きているとね、色々覚えるものなんですよ」
僕は余裕の表情でにっこりと笑った。こんなのはまだ実力の一端だとでも言いたげに。
睡蓮の顔が緊張と動揺に包まれていく。
僕は見つからないようにそっと息を吐いた。
なんてったって思いっ切りハツタリなのである。この精霊たちだって実はそんなにたいしたものじやない。まあ、だからといってまるっきり偽物というわけでもないのだけれど。たしかに普通の精霊を喚び出すのにはすごく力がいる。しかし、彼らはもとは柳(ぼく)についていた寄生木(やどりぎ)、つまりはとんど体の一部に等しいものたちだ。それが師匠の術の余波を浴びて精霊となったものだからそんなに負担がかからない、そういうことだ。
本当はこういうのは好きじやないけど笑えるくらい実力差があるんだから仕方がない。驚かせて混乱させて自分から帰っていただくのが一番だろう。
「大人しく、師匠のもとへ帰っていただけませんか?悪いようにはしませんから」
視線に少しだけ術のカを乗せて睡蓮の瞳を射る。術の名は【魅了】。師匠の教えてくれた唯一まとも(?)な術だ。要するに僕はこれ以外の実用的な術を持っていないわけだ。 タラシの術が必殺技(ひっさつわざ)なんて・・・・・・・・なんだか少し悲しい。
「おねがいします」
それはともかくこれが失敗したら本当に後がない。自然、術にもカがこもる。睡蓮の瞳にあった強力な意志の光が曇りを帯びる・・・と、僕はかすかな違和感を感じた。
違和感の正体の分からぬまま術は続いていく。
「帰っていただけますね?」
ささやくように問う。ここで睡蓮が首肯しさえすれは万事解決だ。
「・・・・・・わ・・・かり・・・・・・・・わ・・・」
よし。あと一息だ。
「帰っていーーーーーーー!?」
「碧柳っ!」
切羽詰まった声に襟首を捕まれて引き倒される.
ジユッ・・・・・・
抗議を口にする前に僕の服の袖が異音をたてて燃える・・・というか灰も残さず蒸発した。
「・・・・・なっ・・・・!?」
もう少しで自分もこうなっていたと思うとぞっとする。
「・・・なんてね。成功したと思いまして?残念ですわね。あの程度では魅了されませんことよ」
「・・・やっばりだめでしたか」
僕の渾身の術を受けて平然と立っている睡蓮を見て僕は嘆息した。やっぱり実力が違いすぎる。
「おい、平和的にはいかんらしいぜ?」
指をばきばき鳴らしながらなぜかうれしそうに言う丹宵。彼は僕たちの静かなる戦いよりこっちの方が分かりやすくていいと思っているのだろう。
「・・・・仕方ないですよね・・・丹宵、ちょっと耳を貸してください・・・・・・・・・・」
僕は腹を括り、身を起こした。
「白楊、薔薇、丹宵を手助けなさい。辰砂は僕のもとへ。南珂と槻は、睡蓮へー丹宵、たのみましたよ」
「よっしや−っ!んじや行くぜっ」
丹宵の呪符の放った炎が開始の合図となった。
全てを嘗め尽くすかのような紅蓮の業火が睡蓮に迫る。
南珂と槻も炎とともに高速で翔んでいく。
「南珂!槻!」
一直線に進んでいた南珂と槻の進路が、ついと急に変化する。弧を描くように南珂は上方、槻は下方から迫る。
避けられない三方からの攻撃。
二つは避けられても三つ目は無理なはずだ。
【あれ】さえ取れれば二人でもきっとなんとかなる。
「・・・・・・え・・・?」
次の瞬間、僕は信じられないものを見た。
「ちら・・・された・・・?」
睡蓮が軽く手を振っただけで精気の固まりのはずの炎と精霊が紙を散らすようにあっけなく空に散り散りになっていく。
「・・・っつう・・・・・・」
右腕と左脚がひどく痛む。体の一部のようなものだから彼らの受けた衝撃は全て僕に直接的に還ってくるのだ。・・・あれは、精気の障壁を張っているのか?
あまりのことに呆然としたのも束の間、睡蓮の後に現れた人影に気付いた僕は慄然となった。
「でええええええええええええええええいっ!」
ありったけの符をもって睡蓮に突っ込んでいく。
その時僕は睡蓮がおかしそうに笑ったのをたしかに見た。
「だめだ丹宵っ!!白楊!薔薇!!守れっ!!」
数十枚の符から放たれた炎が、雷が、風が睡蓮を襲う。異常に引き出された精気が空宙でパチパチと悲鳴をあげる。
「声をあげては奇襲になりませんわよ」
ぴっとなにかが飛んだ。途端、丹宵の頬が薄く裂ける。
「人間ごときにやられるほど弱くはありませんのよ私」
もうもうと舞う砂ばこりにまだ消え切らない精気の渦。その中から聞こえてくる声。
・・・遊ばれているのだ。
最初から僕たちなど眼中にないと。
「・・・辰砂」
でもね、あんまり人をみくびってると・・・後悔するよ?
「つぎけんなあ つつ!!!」
だからもう少し静かに・・・って言っても無駄だろうなあ。・・・仕方ない。
「南珂、槻、行っけええええええええっ!!」
腹の底から叫ぶ。散った精気が集まってくる。
一瞬驚きに表情を変えた睡蓮だったが、すぐに余裕の笑みを取り戻す。
「なんのおつもり?中身がすかすかですわよ」
無駄な努力をあざわらうように睡蓮は細い指先でなにげなく精霊をパチンとはじいた。たったそれだけで、集まりかけた精気が細かく散って消え失せる。
「そんな・・・」
手足が痛い。
力なくうなだれた僕の上から声が降る。
「・・・・・もうあきましたわ。なにをしても無駄ですわよ。力が違いすぎるんですもの。もうとっくに分かっているでしょぅ?大人しく消えてくださらない?むくわれない努力なんて小石ほどの価値もないもの、時間と労力の焦駄な消費にすぎませんでしょう?」
勝ち誇った声。気付いちゃいないな。
「・・・そこが人間の不思議な所なんですよ。ねえ?」
僕はにやりと笑って顔を上げた。
「丹宵」
「!?」
遅い。
すでに丹宵は高く結い上げた髪に飾られたたくさんの玉の中から一つを迷いなくむしり取っていた。
「還れ!」
つい一瞬前まで丹宵がいたところを精気の刃が容赦なく切り裂いていく。
初めて睡蓮の顔に焦りの表情が浮かんだ。
「シカトぶっこいてんじやねえぞクソ女」
中指をおっ立てながら悪態をつく丹宵の手に握られているのは銀細工の藍の石。
「封じの石。この中に封じられていた者はたとえ封印が解けてもこれから離れるとほとんど力が使えなくなるとか。そんな大切なものをこれみよがしに髪に飾ったりしてずいぶんな自信をお持ちですね。貴女が軽視している人間に裏をかかれるのはどんな気分ですか?」
「おまえさりげにキツイな」
「後学のためにと思いましてね」
さらりと言って睡蓮を見る。
「どうします?」
壊されたら嫌だよね。嫌だったら大人しく戻ってよ。ってな脅し在中の言葉に、睡蓮は見ただけで焼き殺されそうな目で僕らを睨んだ.丹宵に玉をむしり取られたためにばらけた長い黒髪が白い顔にかかって彼女をなお壮絶な雰囲気にする.まさに鬼女の形相だ。
「・・・・・・・楽しませてくれますわね。お礼といってはなんですけれど、ひまつぶしの仕上げにあなたたちが守りたがっているものを壊してさしあげますわ」
そうくるとは思った.僕は不敵な笑みを口の端に刻む。
「…いいですよ.後悔することになると思いますけどね」
「どんなふうに後悔するのか、見せてもらいますわ」
またただのハッタリだと思ったか、僕の言葉にかまわず精気を集め始める睡蓮。
「・・・丹宵、僕の後ろから出ないでくださいよ・・・」
白楊と薔薇は睡蓮の障壁に穴をあけたせいで消耗している。南珂と槻はもう喚び出すのさえ難しい。
・・・きついかもしれない。
そうしている問にも睡蓮のもとに精気が集まっていく。
空気が緊張を帯びる。
すごい。封じの石なしでここまでできるなんて。
「だけど・・・気付かないなら終わりだ」
僕のつぶやきも意に介さす、精気を集め終えた睡蓮はそれを四方八方に飛はすための印を組んでいる。彼女が初めてまともに術の用意をしている。・・・ということは、封じの石を僕らが持っているとはいえ威力は今までのとは比べものにならないだろう。下手をすると世界そのものふっ飛ぶかもしれない。ただし、通常空間でなら、の話だが。
「一体どうしたのかしら。後悔するのはあなたたちの方のようですわね!」
僕は答えない。丹宵は黙っている。
どこからか、きしりぴしりと小さな硬質な音が聞こえる。
冷静さを欠いた睡蓮は精気の悲鳴に気付かない。
「これで終わりですわ!」
本当に。
睡蓮が精気を開放した瞬間、限界まで引き出された精気が突然暴走、逆流する。
「きゃああああああああああああああっっっ!?」
制御を離れた精気の刃が術の中心にいた睡蓮に殺到する。きっと睡蓮には何が何だか分かっていないに違いない。
流れ弾ならぬ流れ刃が僕らをも襲ってくる。
方向をそらし、勢いを殺し、必死にそれを避ける。一つでもまともに当ったりしたら重傷どころの騒ぎじゃない。
とてつもなく長く、実はそんなに長くはない数十秒間がたった時、一つの大きな刃の軌跡をそらした薔薇がそのまま空に消えた。続いて飛んできた鋭い刃を自揚がなんとか飛ばし返す。
・・・白楊だけじゃ時間の問題だ。
白揚が右の方からの刃を砕いたとき、その破片が細かく飛び散った。
「やばっ・・・」
白揚を呼び戻す暇はない。僕はとっさに丹宵をかばった。小さい破片といえど精気の純粋な固まり、破壊力は判り知れない。
「・・・・・・つっ!」
脇腹に一つ、左手足に一つずつ。痛みというより熱さが爆発する。どこも麻痺したようにうまく動いてくれない。
「なにやってやがんだボケ!!」
「・・・核を失ったら駄目でしょう?今は自分の役目を果たすのが一番です。心配しなくても僕はこの程度じゃまだ死にはしませんよこう見えて結構頑丈なんです。ただ、血の匂いには酔いそうなんですけどね」
「・・・このボケ!頑丈っつっても択度があるだろうが!なんでテメーらはそうなんだよ!?」
なんでと言われても・・・・・・助けたかったからっていうんじゃ駄目なんだろうか?
それにしてもここらがそろそろ潮時だろう。もう少しねばりたかったが・・・。これだけの刃をくらえば睡蓮とて無傷というわけにはいかないだろうし。
「・・・辰砂、もう食べていいよ」
1人待機していた辰砂は躍り上がった。飛びかう刃のただなかに飛びだすと刃を、精気を吸収しはじめる。そしてそのたび大きく、輪郭(りんかく)もはっきりしていく。これが本物の精霊の持株能力だ。やはり他の四体とは違う。ほんの数秒で百近くあった精気の刃が全て吸収されてしまう。
「な・・・なんでしたの・・・?」
刃が一番密集していた所に茫然とへたりこんでいる睡蓮あちこち切り裂かれて見るからにぼろぼろだ。
「アホだろお前」
張りつめた一種異様な空気をきれいさっぱりこなごなに打ち壊してくれる一言。
「閉ざされた空間で無理に精気引き出しゃこ−なんのなんざ当たり前だろ−がバカ」
すがすがと追い打ちをかけまくる。
「・・・・・・結界!?」
はっとしたような睡蓮。
「他人を巻き込むのも、関係のない物を壊すのも、時間と労力の無駄な消費にすぎませんからね。鋼の音、聞こえましたよね?そして・・・・・・」
飛び出そうと身構えた睡蓮に、パチンと指を鳴らす。
「あなたは逃げることはできない」
睡蓮の足元に封じの石にある銀細工と同じ不思議な図形が描かれている。さっき精気が暴走している間に辰砂に描いてもらったものだ。
「自分から・・・もう一度封じられる気は、やはりありませんか?」
「・・・・・・」
沈黙が答えだった。
「・・・それではこちらとしては気絶していただくしかありませんね。しかし貴女はとても頑丈なようですから生半可なことでは気絶していただけないでしょう。・・・という
ことで丹宵、結界しっかり支えておいてくださいよ。切れたらシャレになりませんからね」
「何するつもりだ?・・・っておまえ目エマジ恐ぇえ」
手札はすべて出揃った。このままでも悪くはない手だ。
けれどどうしてもあと一つ、奇跡の札がほしい。
・・・・・・賭けるか。
「辰砂・・・精気でお腹いっぱいになっただろう。彼女の側で自爆なさい.骨の一片残さなくていい」
「なっ!?」
「町を、木を壊そうとしたむくいは受けてもらわないとね。貴女にはこれくらいがちょうどいいでしょう?大丈夫。死にはしませんよ。・・・・きっとね」
信憑性限りなくマイナスの言葉に睡蓮の顔が目に見えて強ばり、蒼白になる。
「そ…そんなことしたらあなただってただじやすまないですわよ。わ…分かってますの?」
「それが?」
冷淡に返してから、睡蓮の目をひたと見据える。
「僕はすでにただですみはしないんですよ。貴女のおかげでね。どこも痛いしうまく動いてくれないし血は止まってくれないしおかげで本格的に血に酔ってしまったようですよ。それにね、実はその精霊、僕の寄生木じゃないんです。だから自爆させようがどうしようが僕には何の影響もありはしないんですよ」
確信はない。ただ、辰砂だけがもつ特殊能力や名前がそうではないかと思わせるのだ。
「さて、どうします?まあ、いまさら自分から石に返るといわれても困りますがね」
軽く笑む。
「・・・精気分くらいは、働いてもらいますよ」
だれにともなく言葉を投げる。
「辰砂、派手にやりなさい」
これでもし辰砂が正真正銘僕の寄生木だったりしたら、自爆と同時に僕も消えるだろうけど。
ハイリスクハイリターンだ。
僕の言葉が終わるか終わらないかのうちに天から稲妻が一筋落ちてきた。それは呆然としている睡蓮を打ち据え、そのうえ僕の方に向かってきた。避ける暇もない。
雷って意外と痛くないんだなあ・・・と、思っていると、
「てめえらのケツくらい自分で持ちやがれよボケ!」
バチィッと弾ける稲妻に師匠の声が頭に直接響く。
やっはり辰砂は師匠のだったか。
安心した途端、ふうっと急に体が軽くなった。少し血が流れすぎたかもしれない。そういえば今まであれほど感じていた痛さがもう感じられない。
「しっ・・・死ぬかもしれない・・・・・J
「この程度で死ぬような知り合いは俺にはいねえ!」
そりゃ死んじゃったら知り合いどころじゃないだろうよ。なんて見当違いのことを最後に、僕の思考は途切れた。
4
・・・・・・・・・・まぶしい。
・・・・・・・・うるさい。
・・・・・・なんなんだ?
目を開けると青い空が見えた。
「・・えと・・・・ここ?」
あれ、僕死んだ?
頭がぼーっとする。体が重い。
だるくて体が動かないから空しか見えない。
いい風がふいている。
寝転んで空だけを見ていると雲じゃなく自分が動いてるみたいに思える。
すごい。空の雲が虹色だ。
きらきらなにかが光っている。まるで大きな薄青の硝子の破片。天辺から砕けて舞い散りながらおりてくる。
ゆっくり首をめぐらせる。
ひび判れた半球状の硝子。えぐれた地面。奇妙なほどの精気の少なさ。
「結界?・・・丹宵?」
それじゃ、自分はまだ生きているのだろうか?
体中の筋肉を総動員して上体を起こす。
「丹宵?」
近くにいると思ったんだけど。
とにかく結界が完全に破れてないなら丹宵は無事だ。
僕は立ち上がりた。
「・・・・・う・・・・・・・」
頭、痛い。吐き気がする。
ふらふらしながらも、結界の側面に大きな亀裂が走っているところをめざす。とりあえず外に出たい。
普段の三倍くらいの時間をかけて亀裂まで辿り着く。人一人くらいなら楽に通れそうだ。
耗界から出る。普通の結界ならそこから出たとたんに人に出くわすとかそういう困ったこともあるが、丹宵のは本結界のまわりを霧のような薄い結界がとりまいているのでそういうことがない。
本結界とまわりの結界の間、精気のるつぼのようになったところに腰をおろす。結界の中から出た途端吐き気がおさまった。多分体の不調は精気が足りないせいなのだろう。ここでいれば丹宵もそのうち現れるだろうし。
ああ それにしてもよくあの状況から助かったもんだ。やっばり師匠は奇跡なんだなあ・・・・・・・
5
それからしばらくして帰ってきた丹宵は、左頼に真っ赤な平手のあとがあった。何度何いても敢えてくれなかったけど、一体何があったんだろう?
怒っているのかスネているのか、ずっと無口な丹宵だったが、睡蓮がどうなったのかと聞くとにやりと笑って、封じたぜ!と言ったので僕はほっとした。なんって言うんだろう。解放感?爽快感?達成感?何だかすごくいい気分だ。
僕が完全に元気になったのを見計らって(そりやあ突然ふらふらのヤツが現れたらみんなびっくりするだろうから)丹宵が結界をとく。書い霧が空にとけていく。
「・・・・そういえば僕とか丹宵って怪我とか服破れたりしてましたよね?いつのまになおっちゃったんです?」
「・・・・・・・・・あのバカがやったんだよ」
「はあー・・・・・・・」
やっぱり師匠ってすごい。
結界の名残が去ると、ぱたぱたとおそまきながら警備らしき人々が僕たちの方に向かって駆けてきた。まわりには再び復活した野次馬たちがいるから『僕たち』に用があるわけではなさそうだけど。
「おまえたちだな」
「・・・・・・・・・・・は?」
警備の目はまごうことなく僕たちに向けられている。
・・・・・・・僕たちに用があったらしい。
「・・・・僕たちに何か用ですか?」
警備の頭らしい人に聞くと、彼はぴきりと青筋を浮かべた。よっぽど短気な人なのか?
「・・・・・・を・・・倒しただろうが!」
最初の方がくぐもって聞き取れなかったが、倒したといえば睡蓮しかいない。どうして知ってるんだろう?だれか目撃者がいたとか?
「・・・どうなんだ!」
尋問口調なのは気になるが、
「はいそうです」
僕は迷いなく答えた。
「そうか・・・」
死にそうになりながらも睡蓮という強い人を倒せた(ただしとどめは師匠がさしたが)ことに舞い上がり、思わずにこにこしていると、なぜか縄を掛けられた。
丹宵も同じように縛られている。
・・・・・?なんで?
「氷の無銭飲食の罪で逮捕する」
警備の頭らしき人が茫然とする僕たちに低い威圧的な声で言い放つ。
「え、え、えェツ!?」
そんな大事の前の小事・・・という抗議は虫の羽音のごとく無視された。
氷の値段は高い。二人分ともなると普通の人の一カ月分の収入くらいは軽くふっ飛ぶ。お金は質屋の主人に返して
しまって僕らは実質上文無しだ。
かくして。
僕たちは今、皿洗いをしています。
本当なら、法に従って罰を受けるはずだったのですが、氷屋の主人がそれを止めてくださいました。
僕たちが来てから水屋は大盛況で、二カ月後にある祭りの日までいてくれるように言われています。
師匠。
僕の休暇はあと二カ月はど延びてしまいそうです。