雨 (作者:辻山 希美代)
雨が降っていました。
しとしとと、しんみりと。
由枝は、校舎の三階の窓辺に立って、空から落ちてきては、
水たまりへとすいこまれる雨を、じっと見つめていました。
いつも通る、通学路。薄暗い、廊下。教室。
雨に打たれる、すこしさぴが目立ってきた、黒い門…
何だか−そう、何処となく、違和感。
見慣れている筈のそれらは、何だか違って、由枝の瞳に映りました。
でもそれは、雨のせいではなく、
夜へとせまる、黄昏のせいなのかもしれません。
−−−あんなにそとは、昏くて・・・重い。
由枝、カバンを持ちました。
ゆっくりと、窓からはなれます。
“逢魔が時”
そんな言葉が、横切って。
・・・たそがれ。−−−昼と夜とが、まざりあう時間。
昼とも夜とも判別のつかない−−−昼でも夜でもないこの時間。
人は、より、魔に逢いやすいのだそうです。
そう由枝は、逢いたいのです。
魔に−−−もう二度と逢えなくなったあの人に。
《Fin》