プロローグ−目覚め−  (作者:小橋てっこ)


 耳元で、奴らから奪いたてのラジオがノイズを響かせる。
 ノイズだらけのラジオ。もしチャンネルを合わせても、つまらない言葉しか吐かないラジオ
 大切なことは、何も伝えないラジオ。
 −−−−−うるさい。
 妙に胸がムカムカする。
 体はまだ夢から醒めてないのか、とてもダルイ。
 −−−−−夢? 夢なんて物、ずいぶん見てない。

 「夢を見るな。」「夢も未来も捨てろ。」
 それが、あたしがここに来て、初めて知った常識だった。

 耳元で、奴らから奪いたてのラジオがノイズを響かせる。
 外でけたたましいクラクションが鳴り響く。
 合図だ。
 外で誰かの声がする。誰かの足音が聞こえる。
 布一枚隔てた道路の、ちょうど私の枕元で足音が止まる。
 足音は何も言わない。ただ無言のうちに、起きろと催促する。

 −−−−−起きろというの? あたしに?
      生きろというの? あたしに?

 何も生まれない、何も変わらない貧民窟で、
 今日も虫ケラどもは生きてゆかねばならない運命にある。