堕天使異聞録  (作者:夢追人)


ある日彼は争いを見つけた。
彼は主たる神にその事を告げた。
全ての父たる神はその言葉を疑った。
神は争いを起こした二人を天に呼び、問いかけた。
「そなた達は互いに争ったか?」
「いいえ、父たるあなた様の御名に誓って、そのような事はしておりません。」
神はその言葉を信じた。
そして真実を告げた彼の六つのうち二つの翼をもぎ取った。

ある日彼は盗みを見つけた。
彼は主たる神にその事を告げた。
全ての父たる神はその言葉を疑った。
神は盗みをはたらいた二人を天に呼び、問いかけた。
「そなた達は人の物を盗んだか?」
「いいえ、父たるあなた様の御名に誓ってそのような事はしておりません。」
神はその言葉を信じた。
そして真実を告げた彼の四つのうち二つの翼をもぎ取った。

ある日彼は殺しを見つけた。
彼は主たる神にその事を告げた。
全ての父たる神はその言葉を疑った。
神は殺人を犯した二人を天に呼び、問いかけた。
「そなた達は罪なき者を殺したか?」
「いいえ、父たるあなた様の御名に誓って、そのような事はしておりません。」
神はその言葉を信じた。
そして真実を告げた彼の残った二つの翼をもぎ取った。

かくして彼は
堕天使であった彼は
全ての翼を失い
天を追放された
真実を告げたがために
追放された

彼が追放された日
地上では
罪を犯すことが
許された
神の手によって
神自身あずかり知らぬところで
許された