7/9
辻山 希美代
 山に無理やり削りこんだ車道を、ゆっくりと下っておりました、その際に、分厚い木々が切れ間を覗かせ、麓の街の展望が、視界いっぱい飛び込んできました。 
きらびやかなネオンではなく、落ち着いた住居の光りたちです。少し身を乗り出すと、遥か下で家はまるでマッチ箱のよう、けれど確かにそこに存在しています。

その雄大さ。

はからず、息をのみました。
星の数の家。その一つ一つにドラマがあり、そこに暮らす人間たち一人一人が人格を有し、各各が一生懸命に生きているのです。何一つとして同じ営みはありません。

何てことだろうと思いました。
軽い眩暈さえ感じた程です。

そして。どうしてだろう私は、すごいとか感嘆するのではなく、それら生命(いのち)の営みに、何処か薄ら寒い、慄然(ぞっ)としたものさえ覚えたのです。